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2020年2月2日
量子医療推進機構 講演会 『切らずに”がん”を治す』 新しい医療を目指して ~量子医療の最前線から~

ミクロレベルでがん細胞だけを破壊する夢の粒子線治療、ホウ素中性子捕捉法の新展開

宮武 伸一 氏

大阪医科大学がんセンター 特務教授

悪性腫瘍が難治性である最も大きな理由の一つは、腫瘍細胞が周りにある正常な組織の中へ、あたかも樹木が根を張り伸ばすかのように入り込んで増殖してゆくことにあります(浸潤発育)。

どのような外科医でも、正常組織に細かく食い込んだがん細胞を一つ残らず、かつ正常組織を傷つけず、完全に摘出することは不可能です。

これまでの放射線治療にもこの事が当てはまり、現状で最高の精度を誇る陽子線あるいは重粒子線を用いても、周りに浸潤したがん細胞を完全に殺すことはできません。

これを理論上、唯一可能に出来る粒子線治療が「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)です。
腫瘍だけに取り込まれるように調整したホウ素製剤を投与し、ホウ素を取り込んだ腫瘍細胞に向けて、正常細胞を傷つけない程の極めて微弱な熱中性子を照射すると、ホウ素製剤に含まれるホウ素原子(10B)が中性子を捉えて、細胞を殺す力が強いアルファ線とリチウム粒子が放出されます。

このアルファ線は細胞一個分ほどしか飛ばないので、ホウ素を取り込んだがん細胞だけを破壊することができます。

このBNCT法は、浸潤発育傾向に富む難治性の脳腫瘍(悪性神経膠腫)や頭頚部がんなどに高い治療効果を示します。近年中性子源として、原子炉から脱却し、院内設置型の小型加速器中性子源が開発され、上記2疾患に対して治験を行っています。

講演ではこのBNCTの原理、利点、欠点、今後の展望等が紹介されました。

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